思い出の電子ピアノを修理するか、新しい中古を買うか?90年代ヤマハYDP-300に込められた家族の物語

思い出の電子ピアノを修理するか、新しい中古を買うか?90年代ヤマハYDP-300に込められた家族の物語

はじめに:30年前の電子ピアノ、YDP-300のご依頼

先日、1990年代に製造されたヤマハのクラビノーバ、YDP-300のクリーニングと整備のご依頼をいただきました。 電子ピアノの寿命や進化を考えると、30年以上前のモデルは、正直なところ「直すよりも買い替えた方が安い」ケースが少なくありません。

プロとしての葛藤とアドバイス

ご依頼を頂いた際、私はまずプロとして正直なアドバイスをさせていただきました。

「出張費や作業費を含めると、少し金額を足せばもっと年式の新しい、性能の良い電子ピアノの中古が買えますよ」

これからピアノを始める電子ピアノ初心者の方にとっても、新しいモデルの方がタッチや音色の面で有利なことが多いからです。しかし、お客様は「どうしてもこのピアノをお願いしたいのです」と譲りませんでした。

その理由は、すぐにお伺いして分かりました。

「おじいちゃんが買ってくれたピアノだから」

お客様はこう仰いました。

「亡くなった父に買ってもらった電子ピアノなんです。おじいちゃんが大好きな子供がこれを使うので、しっかりとメンテナンスをして欲しかったのです。面倒な作業をお願いしてしまいすいません」

このピアノは単なる楽器ではなく、亡きお父様とお孫さんを繋ぐ「思い出そのもの」だったのです。コストパフォーマンスだけでは測れない価値がそこにはありました。

90年代モデルの修理・クリーニングの難しさ

作業にあたり、リスクについてもご説明しました。 1990年代の電子ピアノは、経年劣化によりプラスチック部品が硬化していることが多くあります。特にこの時代のヤマハ製は、足元のプラスチックパーツが割れやすくなっています。

  • 部品供給の終了: もし作業中に割れてしまっても、替えの部品はもうメーカーにありません。
  • 養生と慎重な作業: 万が一のリスクを説明し、ご了承いただいた上で、厳重に養生をして作業に入りました。

古くてもさすがヤマハ。そして次世代へ

内部を開けてみると、さすがヤマハ。作りは非常にしっかりしています。 今回は以下の作業を入念に行いました。

  • センサー周りのクリーニング: 音の反応を良くするため、鍵盤下の汚れを除去。
  • 内外装の清掃: 長年の埃や汚れを徹底的にクリーニング。
  • お引越しの準備: 実家から現在の住まいへ移動させたいとのことでしたので、分解して運びやすい状態にしました。

ご自身で組み立てられるよう、ビスを入れる順番を袋ごとに小分けにし、手順をお伝えして作業終了です。

まとめ:思い出を守る仕事

電子ピアノの修理は、単に音が出るようにするだけではありません。今回のように、ご家族の思い出を守り、次の世代(お孫さん)という新しい初心者ピアニストへバトンを繋ぐお手伝いができたことを、心から嬉しく思います。

「安く済ませるなら中古への買い替え」が正解かもしれません。しかし、「プライスレスな思い出」には、手間をかける価値があります。

思い出の詰まった電子ピアノの不調でお悩みの方、まずはご相談ください。


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